前回の記事
世の中には、自分の知らない職業・肩書きがたくさんあるものです。

「変わった職業」で検索すると出てくるページ。「ひきこもり」は職業じゃない気もするが、まあいいや
ベビーダンスインストラクター、発酵デザイナー、パフォーミングアーティスト、そして怪談作家。
僕も過去に「ブルーオーシャン狙って珍しい資格でも取るか」などと考えたことがありますが、「よし、将来は怪談作家になろう」と思ったことはありません。むしろ大学3年生の時点でそんなこと言い出すやつがいたら友達は心配したほうがいい。
しかし、この世に怪談の本が出ているということは無論それを書いている人がいます。そしてその人は間違いなく「怪談作家」だ。
というわけで、世にも珍しい「怪談作家」について、群馬県出身・在住の怪談作家、「戸神重明(とがみしげあき)」先生に聞いてきました!!!
「高崎怪談会」を終えて
「戸神先生、あらためて『高崎怪談会』の開催および出演、お疲れ様でした!」
「こちらこそ、ご参加いただきありがとうございました!楽しんでいただけたでしょうか。」
「いやあもう、本当に面白かったです…!空間演出から語りまで、トータルで楽しめるイベントでした。ところで、参加者の年齢層は30代〜50代が中心だったと思うのですが、これまでの開催でもそうでしたか?」
「そうですね、基本的にはそのくらいの年代の方々がいらっしゃいます。若い人はあんまり来ないです」
「存在を知らないだけだと思うんですよ!『怪談会』なんてどう考えても面白いし、知ってたらもっと来るんじゃないかと思います。表出しないだけで『怪談作家になりたい!』っていう学生がいるかも知れませんし」
「そんな子がいたらまず止めますけどね(笑)怪談作家になろうなんて、思わないほうがいいですよ…」
「えっ!やっぱり呪われちゃう感じですか?」
「いえ、単純にしんどいので」
「それは呪いよりもキツい・・・・・・」
怪談作家になるまで
「というのも、私自身が大変だったんです。私も最初から怪談作家になろうと思っていたわけではないですし」
「最初は何を目指されていたんですか?」
「動物小説家です。もともと動物好きというのも理由ですが、戸川幸夫先生という作家の影響が大きかったですね。その方はよく動物文学を書くんですが、ずっとファンなんです。私の『戸神』というペンネームも、戸川先生から一文字拝借しています」
「動物文学というのも初めて聞きました…。小説のジャンルって果てしないですね。そこからどのように怪談作家になったんでしょう?」
「動物の小説書きたいなーと思いつつ、純文学を書いたり詩を書いたりしていたのですが、なかなか上手くいかずに挫折しちゃいまして…。そんな中、怪談雑誌である『幽(ゆう)』に出した作品が佳作に引っかかり、手応えを感じたんです」

怪談専門誌「幽(ゆう)」
今から怪談作家になるには?
「なるほど、専門雑誌の入賞から怪談作家としてのキャリアをスタートさせたんですね。ちなみに、そのコンテストで大賞を取ったら怪談作家としてのキャリアは安泰なんでしょうか?」
「それが、『幽』文学賞も、『幽』怪談実話コンテストも2015年で終わってしまったし、超-1実話怪談コンテストも2013年で終わってしまったので、いまは『怪談作家の登竜門』のようなコンテストが少ない状況なんですよ。ですから、怪談作家としてデビューするのはなかなか難しいと思います。新人賞とは関係ありませんが、過去に発行されていた女性向けの怪談誌『Mei(冥)』も休刊してますし……」
「『女性向け怪談専門誌が休刊』という文、空を切る感じがすごい」
「でもその一方で、カクヨムやエブリスタなどが新人向けのコンテストを始めているので、今後どうなるか……まだわかりませんけど、まったく希望がないわけではない、とは思います。ただし、もともと編集者と縁故があったり作風が気に入られたりしていた人でない限り、基本的にはコンテストで入賞してもすぐに『単著』を出版するというのは難しいのではないかと思われます。」
「言われてみれば、怪談って複数の作家さんが名を連ねているような『共著』が多いような気がします。怪談界隈で単著を出版するのって、大変なんですね…!」
怪談好きの祖母、怪談嫌いの母
「でも、怪談専門誌に投げ込んだということは、もともと怪談はお好きなほうだったのでしょうか?」
「そうですね、時代劇と怪談好きだった祖母の影響もあって、昔から怪談の類は好きなほうでした。でも母親はそういうのが苦手で、『ゲゲゲの鬼太郎』だけは見せてもらえましたが、もっと怖い妖怪モノや怪談モノは漫画もドラマもドキュメントもまったく見せてもらえませんでした…。怪談作家は昔から”怪談漬け”な方も多いですが、どちらかというと私は怪談から遠い環境で育ちました」
「怪談から遠ざけて育てた息子が怪談作家になるのめっちゃ面白いですね…(笑) では、本格的に怪談に触れたのはいつ頃になったんでしょうか?」
「中学校時代ですかね。同級生に怪談マニアみたいな少年がいて、よく彼から借りて読んでいました。」
「なるほど…!思えば、自分も中学の同級生に妖怪マニアがいました。そういう人、なぜだか学年に1人はいる気がします。」
怪談作家ってどんな仕事?
「そういえば怪談作家って、『怪談を作る人』っていう認識で合ってますか?それとも、『集めた怪談を発表する人』…?」
「怪談には創作怪談と実話怪談があります。そして実話怪談でも、集めた話の文章だけを整えたものと、読み物として面白くなるようにヒネリを利かせたものの二つに分けられます。私の場合は後者寄りですね。取材したりネタを募集したりはしていますが、そのまま書くのではなく、数話をくっつけて一話にするなど、自分流のアレンジを加えてから発表しています」
「フィクションでもノンフィクションでもないような領域!!!『事実かどうか』より『面白いかどうか』なんですね。普通にクリエイターだ。」
「もちろん取材した話をそのまま忠実に書いている方もいると思いますよ。私の場合は『主人公を大人から子供に変更することで怖さを増幅させる』などの手法も使っています。いつもやっているわけではありませんが」
「確かに、世界を知らない子供のほうが『不思議な体験』をすることが多いから、感情移入しやすいかもしれないです。昔も僕はオバケを信じていたし…。」
さいごに:「オバケ」は視えるのか?
「最後に『霊感』について聞きたいのですが、怪談の語り手って基本的に『子供の頃から不思議な体験をしており…』みたいなパターンが多いじゃないですか。やっぱり戸神先生も『視える』ほうですか?」
「霊感、ないですねぇ」
「ないんかーい!!!
え、じゃあオバケとか視えないんですか!!??」
「視えないですね〜(笑)ただ『怪談購買会』もそうですが、人から『不思議な話』を聞くのは大好きです。心霊スポットなどの取材も、『オバケ、いたらいいなー』って思いながらしていますよ」
「戸神先生が怪談を求めて山を歩き回るのは、霊感じゃなくて好奇心があるからなんですね。いやあ僕、怪談を語る人って全員霊感はあるものかと思っていました」
霊感より、クリエイティブ。戸神先生にお話を伺って、怪談作家の世界は思っていたよりも奥深いことを知りました。戸神先生、怪談会の直後にもかかわらずインタビューを受けてくださり、ありがとうございました!
それにしても、世の中にはいろいろな仕事がありますよね…。「好きなことを仕事にする」っていうとYouTuberとかブロガーとかを思い浮かべがちですが、「怪談作家」っていう世界もあることを考えると仕事って無限だなって思いますね。
最後に、戸神先生はいつでも「不思議な話」を募集していますので、霊感のある方などは先生のTwitterのDMなどでぜひご提供を!
Profile
戸神重明(とがみ しげあき)
1968年群馬県出身。
2010年より実話怪談を中心に共著を多数出版、2015年には初の単著「恐怖箱 深怪」を出版。
最新作は2017年、「怪談標本箱 生霊ノ左」(単著)。
趣味は昆虫採集、カメの飼育、スポーツ観戦など。Twitter:@togami10
ブログ:戸神重明、怪談ブログ