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未来のスタジオ、これからの音楽。藤岡市・「シロシバスタジオ」が目指すもの

「音楽をやっている」と言うと、二言目には「で、食べていけてるの?」と返ってくる。

バンドマンからすれば「食っていけるか食っていけないか」なんて野暮かもしれないけど、ふつうに会社員をしていたり、ふつうに会社員をすることを想定している学生からすれば、「音楽で食べていけるのか」が気になってしまうのは仕方ないこと。

これからの音楽活動って、どうやって続けていくべきなんだろう。

シロシバスタジオは、藤岡市にあるリハーサル&レコーディング・スタジオ。2018年にリニューアルして今の名前になったが、もともとは「スタジオブギー」という名前だった。

 

スタジオブギー時代の外観

このスタジオは、ロックバンド「秀吉」がオーナー。代表は、ギターボーカルである柿澤秀吉さんだ。

 

バンドマンでありながらスタジオを持ち、さらに自らの手で建物の改装まで手がけた秀吉さん。
スタジオをリニューアルをした理由、これからの音楽カルチャーについて、イベント「ぐんふぁフェス」を共催したぐんふぁの七尾がインタビューを行なった。

シロシバスタジオ オーナーインタビュー

今回なぜリニューアルを?

「前のオーナーから引き継いだ時にひとまず1年経営して改善すべき点を探してからと思っていて、ちょうどそのくらい経った今年3月から本格的に改修工事を始めました。業者とかは頼んでいなくて、デザインも作業も仲間と相談しながら作り上げた感じです。まぁ大変なことばかりでしたけど、だからこそさらに愛着が湧いたし、何より楽しかったですよ。友だちやその友だち、ファンの人も来てくれたりして延べ20人以上が協力してくれましたね。ありがたい限りです。」

 

改装中の様子

 

リニューアルのポイントは?

「スタジオ内を広くするために、スピーカーのスタンドを無くして壁掛けにしたり、吸音材をちょっと減らしてもう少し音が広がるようにしました。あと、ここはその昔カラオケBOXで、入口で靴を脱ぐつくりになっていて。その段差もなくしたので、重い機材を運ぶのが楽になったのも大きいと思います」

2枚目フルアルバム「テルハノイバラ」のジャケットイラストがあしらわれたスペシャル自動販売機も

スタジオルームは外観に合わせた鮮やかな青

これからどんなスタジオにしたいですか?

自分たちが10代・20代の頃にあったらよかったなっていうスタジオを作りたいんですよね。あのプレーはどうなってるとか、あの音はどうやって作ってるのかとか気軽に聞けるような。だから、地元の若いバンドマンを先生にしてレッスンをスタートさせたり。今は、CDが売れなくて音楽で食べていくのが難しいなんて言われてる時代なんで、彼らにとっても音楽でお金を得る経験になればいいなと思ってます」

 

秀吉さんはバンドマンであり、スタジオのオーナーでもあり、レコーディング・エンジニアでもある

 

工事の過程もそうですけど、いろんな人を巻き込んでいく感じがいいですね。

「スタジオで楽器を練習する人も少なくなっていて、音楽を作るのも家で全部完結させられるし、それがもちろん便利で手軽でいい面もたくさんあるんですけど。僕はバンドを始めてから今まで、人との繋がりから学んだことばかりで、それがきっかけで音楽を職にできてる今があるんです。なので利用者を含めて、音楽を通じて輪が広がっていく環境にして、色んな人とちゃんと繋がれる空間にしたいんです。ゆくゆくは地域とのつながりも生まれればいいかな。」

 

これからの音楽、どうなっていくんでしょう。また、秀吉さんはどうしていきたいですか?

「FLYING KIDS」のベース、伏島和雄さんと一緒に

「CDが売れないみたいな事で、音楽のこの先が絶望視される風潮を消し去りたくて。たとえCDが無くなったところで、音楽が無くなるわけがないんですよ。むしろより身近になって、もっと必要とされてるんです。この時代でもいい音楽を作り続けるために、いい音楽を作りたいと思ってる人たちのために、いい音楽を聴きたいと思ってる人たちのために、このスタジオはあるんです。」

レコーディング合宿には東京からの利用者も

シロシバスタジオには、バンドがみっちりとレコーディングやリハーサルに専念できる合宿プランがある。

まだこの場所がスタジオブギーという名前だった1月、都内を中心に活動するダンスロックバンド「スパインズ」のレコーディング合宿にお邪魔させてもらった。

合宿はメニューが用意されているわけではなく、バンド側からのリクエスト。今回の合宿は、「1日目にリハーサル(練習)、2日目に最終調整してレコーディング(収録)」というメニューで行なった。

利用者に合わせてフレキシブルなスケジュールを組むことができるのも、このスタジオの魅力だ。

スパインズのメンバーは4人。2013年に結成され、現メンバーになったのは2018年になってからだ。

 

ひとつのフレーズを、丁寧に、何度も繰り返し練習する。華やかなライブの裏側にある努力と、強い熱量。
リハーサルは午後10時まで続いた。

 

2日目、レコーディング・エンジニアである秀吉さんと共に曲を作り上げていく。

あえてホームである東京から離れてレコーディングを行なうのには、どこまでもまっすぐな理由がある。

「東京に住んで東京で活動していると、活動圏内でスタジオに入ってしまうので、活動範囲的にもそうですが音楽的にも狭くなってしまうような気がして。アウェイな群馬県に来て客観的な意見をもらいながらレコーディングすることで、今までとは違う弾き方、表現の仕方を生み出したいんです」

 

翌日、レコーディングは日を跨いで3日目に突入した。

メンバーひとりひとりの意思が、スタッフの意思が、これでもかと曲に注ぎ込まれていく。

 

「とりあえず、完成です」

その一言が出て、メンバー全員に笑顔が咲いた。
納得がいくまで音楽のことだけを考え続けた群馬での合宿に、いよいよ幕が下りた。

 

藤岡市のスタジオが、東京の若きバンドに選ばれ、全力で使われる。

決して目立つ場所にあるわけではないシロシバスタジオ。
それでも、大きな価値を見出されて、人が集まってくる。

リニューアル当日、スペシャルワンマンライブ

スタジオブギー→シロシバスタジオへのリニューアル工事完成間近の、グランドオープン当日。
スタジオのコンセプトを象徴するような「秀吉」スペシャルワンマンが行われた。

以下は七尾によるライブレポートをお送りします。

演奏会場は、なんと建物の扉開けてすぐのスペース。

イメージ的には、練習終わりのバンドマンがタバコを吸いながらたむろしたりしているところ(わかります?)なので、かなりレアですよね。

高崎から来たというファンの方も、「5~6年前から秀吉のライブを観てるけどこういうところは初めて。なんかわくわくする」と嬉しそうにしていました。

 

オープニングアクトは、柿澤さんもメンバーとして参加している「こいするおんなのこ」

ボーカル&てっきん担当のふなとちゃんは、ちょっぴり刺激的なカラーの綿菓子みたいな女の子でした。

「普段はもうひとりキーボードの女の子がいて、天蓋も垂らしているので、死ぬほど緊張しています」と言ってましたけど、その魅力はお客さんに伝わっていたんじゃないかな。

少なくとも、私の頭の中では今も「Milk Life」がループしています

続いて、いよいよ「秀吉」の登場!
「夕の魔法」からスタートして「明日はない」まで、たっぷりと11曲聴かせてくれました。

もちろん全部が名曲でカッコいいんですが、演者と客席の境目がゆるっとしてるせいでしょうか。全体的に流れているアットホームな空気感がたまりません。

MCでは、仲間の支えで出来上がったスタジオが、群馬の音楽シーンを盛り上げて行けるような拠点にという熱い思いも語られて、ここは特別な場所だと実感しました。

アンコールは、お客さんからのリクエストに応えて「花かざぐるま」
YouTubeで17万回以上再生されている秀吉の名曲です。

会場がぐっと一体になった感じで盛り上がりました。ホント楽しかった!

やっぱり、ここは練習やレコーディングをするだけじゃない、音楽好きな人の居場所なんですね。バンドはやってないですけど、私も仲間に入りたい!

たくさんの人の思いがつまったsirosiba studio。今後の展開に注目です!

音楽って、本来こういうものだったのかもしれない

音楽について一番知っているのは、音楽をやっている人たちだ。

シロシバスタジオは、音楽をずっと聴いていたい人たちのために、また音楽を生業としたいプレイヤーたちのために、それを実現する「しくみ」の場なのだ。

まず音楽をやっている人がいて、学びたい人に教え、聴きたい人が集まる。これがずっと続く。
それでいい、というか、それこそが音楽の最終的な目的なのではないだろうか。

楽曲の売上だけに依存しない、原点回帰の「音楽」を目指して。

編集後記

僕は大学時代にサークルでバンドをやっていた程度なので音楽について大したことは言えないのですが、コンテンツのあり方や売り方みたいなところで、秀吉さんとは共通する価値観がある気がしています。言語化するのが難しいのですが、それは「作り手が長続きするシステム作りがしたい」「業界全体を底上げして盛り上げたい」のような意識。

先日、コミックの海賊版サイト「漫画村」が閉鎖しました。日常的に漫画村を閲覧していた人々からすれば「無料で読めて当たり前」だった漫画を、これからは有料で読まなければならなくなったわけです。音楽についても似たような側面があり、無料で聴けるアプリがある限り人々はそちらを使います。だって無料なんだもん。

でも、それって長続きしませんよね。作り手(漫画家、音楽家)が「作ってもお金にならないからやーめた」となるし、これから作り手になる可能性のある人、才能があるかもしれない人も「漫画描いても音楽作っても生活できないなら、やりたくない」と考えるでしょう。そうなったら漫画村やMusicBoxにもコンテンツが供給されなくなり、利用者が減って運営できなくなります。あくまで一時的なサービスなんです。

そうではなくて、ちゃんとこれからの世代も漫画が書かれて、読まれ続ける社会にしたい。音楽がつくられ、奏でられ、それが聴かれ続ける社会にしたいと僕は思っています。たぶん秀吉さんも。

そのためには、まずは利用者である僕たちが作品に対してお金を落とすことが重要です。そして作り手も、工夫してお金が落ちるようなシステムを構築する必要がある。

その第一歩として、シロシバスタジオがあるのだと思います。

地球滅亡の日まで、音を鳴らし続けるために。

 

gooma編集長 市根井

 

インフォメーション

シロシバスタジオ(sirosibastudio)
http://sirosibastudio.com/
住所:群馬県藤岡市藤岡775-17

秀吉
http://hideyosea.com/
Twitter:@hideyoshi_staff

スパインズ
http://spines-jpn.com
Twitter:@_SPINES_

こいするおんなのこ
https://tokimekiotome16.tumblr.com/
Twitter:@tokimekiotome_