東京のデザイナーが、前橋で「和菓子屋」になった理由。

SHARE

東京のデザイナーが、前橋で「和菓子屋」になった理由。

自分のキャリアというのは予想通りにはいかないもので、幼少期からの夢をキッチリ叶えた人なんて滅多にいないと思います。

僕も中学生のころの夢は「グーグルの社長」でした。全然意味わからん。

 

ところで、今年の8月、前橋市の中央通り商店街に「なか又」という和菓子屋さんがオープンしました。

編集長はなか又のどら焼きが大好き

見るからにオシャレなのが伝わると思うのですが、実は店長の榊原(さかきばら)さんの前職はデザイナー(東京)。しかも、その歴は10年以上になるそうです。

 

「東京でデザイナー」から「前橋で和菓子屋」………

一見関連性のなさそうな職業ですし、ふつうのキャリアアップの観点からすれば「なぜ?」と考えてしまいます。

 

今回はそんな榊原さんに、「なぜ和菓子屋になったのか」「前橋市に対してどう感じているか」などの質問をさせていただきました。

「デザイン事務所の社員×和菓子屋の店長」という働き方

市根井:本日はよろしくお願いします。

榊原さん:お願いします。

市根井:まず、一番気になっていることから聞かせてください。榊原さんは、もともと10年以上デザイナーをされていたんですよね。なぜキャリアチェンジをしたのか、そのきっかけが知りたいです。

榊原さん:ずっと、ゼロベースで何かを作ることに興味があったんです。デザイナーはお客さんが作ったものにデザインの力を貸す仕事で、それはそれで楽しいのですが、根本的に何かを作り上げる感覚がもうちょっと欲しいなと思っていて。

そんなとき、偶然にも会社が和菓子屋さんを始めるということで「面白そう」 と思ったのがきっかけですね。

市根井:とはいえ、ふつう10年以上のキャリアがあるものを手放すのは勇気がいることと思います…!

榊原さん:もちろんリスクを負うのは怖いことなんですが、会社の研修でシリコンバレーに行きましてね。向こうの人って、「失敗してないやつは信用できない」って言うんです。チャレンジすれば絶対に失敗するから、失敗してないってことはそもそもチャレンジしてないやつだ、と。

会社員になると納期や予算、スタッフの事情をくんで、なるべく苦しまないようにベターな選択をしがちです。でも、自分はその研修を経て「挑戦できるうちはしておきたいな」と思ったんです。

訪れたお客さんに対し、丁寧にお店の説明をする榊原さん

榊原さん:また私の場合、実は現在もデザイン事務所に籍を置いているんです。会社にいながら面白いことにチャレンジできる、つまり「完全独立の覚悟」までは必要なかったので、それも一歩踏み出すことができた理由のひとつです。

市根井:なるほど、デザイン事務所の会社員でありながら和菓子屋の店長……面白い働き方です。個人事業主には個人事業主の楽しさがありますが、リスクもありますからね。僕もいつ仕事がなくなるか分からないので……

榊原さん:それと私はフリーランスの経験もあるのですが、「誰かとチームで仕事がしたい」という気持ちが優位にあったので、会社員として働くことを選びました。自分はやっぱりフリーランス向きじゃなかったみたいです。

デザインとお菓子作りの、おいしい関係

なか又自慢のどら焼き、「わぬき あんバター」。バターとあんこが口の中で混ざり合い、濃厚な味わいになる。

市根井:しかし……一般的なキャリアアップの観点から考えると、地方で和菓子屋という選択は「ありえない」と思うんですね。群馬の学生からすれば、せっかく東京でデザイナーやってたのに、なんでわざわざ全く関係のない和菓子屋に?しかも群馬に?という疑問が浮かぶのではないかと。

榊原さん:そもそもの話をすると、最初は何でも良かったんですよね。自転車屋でも、カレー屋でも、銭湯でも良かった。

偶然「和菓子屋はじめるぞ」という話を聞いて、チャレンジのつもりで手を挙げました。その結果ここにいて、実際にやってみたらお菓子作りの面白さを新たに発見することができた…という流れですね。

市根井:和菓子への興味は、後から付いてきたんですね。榊原さんが見つけた和菓子の面白さ、教えていただきたいです。

榊原さん:そうですね…いざ和菓子屋になってみたら、デザイナーと和菓子屋には関連するポイントがあることに気づきまして。

市根井:デザイナーと和菓子屋……どのような点が関連しているのでしょうか。

榊原さん:たとえばデザイン事務所には「ウェブに強いデザイナー」がいたり、「パッケージに強いデザイナー」がいたりします。そして和菓子職人にも同じように「あんこを炊く専門の人」がいたり、「季節の練りきり菓子に強い人」がいたりする。つまりどちらも求める成果物に合わせて役割を分担する事が多いんです。

プロジェクトを統括するプロデューサー、デザインを担当するデザイナー、事務処理を行うマネージャー。こういった役割分担は和菓子の世界にも存在するので、これまでに培ってきた思考を活用できますね。

市根井:なるほど。過去の経験が意外なところで役立つことって、確かにあります。

榊原さん:逆に、和菓子屋として現場に立つことがデザインに返ってくることも分かりました。

なか又を始めるにあたってお客様や経営者の方とお話することが増えたのですが、色々な立場や属性の人と対話するなかで、デザインに落とし込める部分も多くて。

市根井:デザインとお菓子作りが循環して、お互いに高めあうようなイメージですね。

榊原さん:そうなんです。だから軸足はデザインに浸けたまま、和菓子とデザインを行ったり来たりしています。

みんながそれぞれの「めぶく」に共感する

市根井:最後に、前橋市のまちづくりビジョンである「めぶく」に関してお聞きしたいです。なか又は、これまでに開催された全ての「めぶくフェス」に出店されていますが、榊原さんとしては「めぶく」についてどのように感じていますか?

榊原さん:「めぶく」、いいビジョンだと思います。ここの設計や建築、隣のGRASSA、スタッフ、何もかもが「めぶく」に巻き込まれていく感じで。みんながそれぞれ自分なりの「めぶく」に共感し、行動に繋がってきていますよね

市根井:確かに、「めぶく」というひとつの指針に向かって、異なる文化が混ざり合ってきているように見えます。
ちなみに、「めぶくフェス」というイベント自体はどうでしたか?和菓子って日持ちしないから、仕込みが大変そう……

榊原さん:「めぶくフェス」に関しては、なか又がオープンするまでの挑戦の場として参加させていただきました。出店時はお店が完成していなかったので、修行先の愛知で働いた後に東京でわらび餅を200セット仕込み、それを群馬に移動……と、確かに大変でした(笑)

だけど、過ぎてみればいい思い出です。出店したことで周りの方との繋がりが深くなって、「めぶくフェスで食べました」と声をかけていただくことも増えました。まさに「めぶき」を感じましたね。

 

伝統と最新技術、和と洋。さらに榊原さんの経験や関係性から生まれるものをブレンドして、「なか又」は更新されていきます。

いまの「なか又」は和菓子屋だけど、これからどうなるか分からない。そんな面白さを感じるお店に、どうしてもワクワクしてしまいます。

 

そして自分のことを考えます。いまはライターだけど、来年の自分は何をやっているだろうか……

榊原さんのように「偶然の出会い」から、かつ「面白そう」という考え方を優先させてキャリアを選んでみることで、新しい道が拓けるかもしれないです。

 

なか又

前橋めぶくフェス