「上毛かるた」は、いつまで『力あわせる200万』と言い続けるのか?

群馬県には、「上毛かるた」というローカル文化がある。群馬県の歴史や人物について読んだもので全44枚あるのだが、驚くことに群馬県民の全員が全ての読み札を暗記しているし、通知表には「国語・数学・理科・社会・かるた」の項目があるし、赤子は「パパ、ママ」より先に「タヤマ、カタイ」と言う。嘘だけど。

小学校に上がると、なぜか育成会的な団体が主催する「上毛かるたの練習をする会」に必ず参加させられることになる。これは本当。目標はシンプル、県大会での優勝だ。上毛かるたは群馬県だけで発展しているローカル・カルタだから、県大会で優勝すれば同時に世界一の称号を手に入れることができる。ルフィが腰抜かすレベルのショートカット。

小学生は群馬の歴史や文化になんか興味がない

【や】の札で「耶馬渓(やばけい)凌ぐ吾妻峡」と読まれる、吾妻渓谷の紅葉

読み札は【つ】「つる舞う形の群馬県」を始め、【す】「裾野は長し赤城山」、【け】「県都前橋生糸の市」、【む】「昔を語る多胡の古碑」……など、内容がとにかくシブい。24歳になった今見たら味がある読み札だと思えるし、県の風土をコンパクトに表現した見事なコンテンツだと思える。

でも当時はカルタになんぞ興味のない小学生なのである。本当は公民館なんか行かないでポケットモンスターサファイアをやっていたかったのだ。ヌケニンの育成と「ひみつきち」の模様替えをしたい。それしか考えていない。札の詳細を知ろうと思ったことなど、一度もなかった。

でも、当然っちゃ当然だ。行ったこともない景勝地の雄大さ、見たこともないオッサンの実績を語られても響くわけがない。現代の小学生も公民館でカルタをするより家でフィッシャーズ見てるほうが515万倍楽しいことだろう。

そのため、子供は札の意味もよく分からないまま大会に駆り出されることになる。「やばけい」って何がヤバいの?「もざえもん」はドラえもん!【よ】の札取ったヤツはエロ!ひどい有様である。

「現在の人口」を表す、【ち】の札

ところで、これを読んでいる群馬県民の皆様。【ち】の札はどう読まれていたか、覚えているだろうか。

上毛かるたが発行されたのは1947年、つまり今年で72年目となるのだが、【ち】の札だけは「読み札が更新される」ことになっている。

発行当初の読み札は【ち】「力あわせる160万」、そして僕が現役で上毛かるたに触れていたころは【ち】「力あわせる200万」と読まれていた。つまりこの札は群馬県の人口を表していて、人口の増加によって読みが変化するシステムなのだ。

群馬県の人口は、上毛かるたが発行された1947年時点で157万人。それを四捨五入して(ちょっと盛って)「160万」とした。それが1973年→170万、1977年→180万、1985年→190万と更新されていき、1993年には200万になった。実際に1995年の時点で人口は200万人を超えている。(参考:平成29年群馬県移動人口調査結果

ちなみに【ち】の札は、この「力あわせる200万」が最新の状態だ。

ちから・あわせる・にひゃくまん。どう考えても過去イチでゴロが良い。

今の群馬には200万人もいない

しかしだな。実は群馬県の人口は2000年あたりで頭打ちになっていて、減少の一途を辿っている。2017年でどれくらいになっているかと言うと、196万人くらい。割っちゃってるんだな200万を。

「1万の位」で四捨五入するならギリ200万人だけれども、地方の人口はこれからもしばらく減少し続けることが予想されている。四捨五入したら190万になってしまうのも時間の問題かもしれない。そうなった時に注目されるのは、やはり【ち】の読み札がどうなるかだ。

 

そもそも上毛かるたは「子供に故郷の歴史や文化を伝えたい」という想いで作られている。渋いエッセンスが多めに含まれる上毛かるたにおいて、【ち】の札だけは「今」を表している。

札が更新されていくということは、【ち】には世代間を繋ぐ役割があるということだ。「父さんがやってた頃は180万だったんだが、今は200万なんだな」みたいな会話をするために用意されているようなものだ。

文化を継承するためにはアップデートが必要な場合がある

【い】の札で「伊香保温泉日本の名湯」と読まれる、伊香保温泉の石段街

産経ニュースの記事によると「当面はこのまま(200万のまま)続ける」ことになっているようだが、自分にはこれが数字にすがっているように見えてしまって、正直ダサく感じる。進学校を出たことをいつまでも自慢するおじさんを見ているようで、悲しい気持ちになってくる。

ただでさえ新田義貞も関孝和も「歴史上の人物」だし、普段聞き慣れない「やばけい」とか「せんきょうおぜぬま」とかいうワードで札が読まれる。そこに過去の栄光である200万という数字を残してしまうと、これからの世代の子どもたちに「自分には何の関係もない、昔のかるた」と思われるだけだ。

 

文化のバトンを次の世代にパスするためには、アップデートが必要だ。もちろん、【た】「高崎は新幹線が通っててマジ便利」に変えろということではなく、「更新すべき部分がある」と言いたいのだ。

その点、カルタを紙からデジタルにした「札ッシュ!!上毛かるたGO!」、現代風のパッケージデザインを採用した「山都園」は素晴らしいと思う。生まれる前の文化に興味を持ってもらうためには、やり方を変えなければいけないことがある。

 

上毛かるたは、いつまで「力あわせる200万」と言い続けるのだろうか。

群馬県の人口はすでに200万人を割っている。勇気を振り絞って、190万に下げてみてもいいんじゃないか。YouTuberだってチャンネル登録者数が減ることがあるんだから、数字が下がることに後ろめたさを感じる必要などないと思う。

 

文・写真=市根井(gooma編集長)