かじゅん、流れ星、カオタンらーめん37、そして藤原拉麺店。オレの好きなラーメン屋が、どんどん閉店している。
飲食店が店を畳む理由は様々だ。客不足や人手不足にはじまり、経営の失敗、店主の病気や死で続けられなくなるパターンもよくある。
そんな中、ラーメン消費する者である我々には何ができるのか。それは、惰性で麺を食わないことである。なくなってほしくない店には、ちゃんと通うべきだ。漫画やアニメと同じように、作品を存続させたいなら作者にメシを食わせなければならない。
きちんと店が潤っていても、やむを得ない理由で閉店してしまう場合がある。その時に後悔しない方法も唯一つ。惰性で麺を食わないことである。なんとなくで安いチェーン店を使っていたら、大好きな個人店が潰れてしまった…なんてことが起こるのが一番恐ろしい。
決して「チェーン店で食うな」と言いたいわけではない。必要なのは「そこで食う理由」なのだ。理由なく惰性で麺を食うことをやめ、意識的に麺を食う。そういう時代にしていこう。
だからあえてオレはチェーン店でラーメンを食う。めちゃくちゃ意識しながら食う。
元カノ的店舗 幸楽苑連取店
訪れたのは幸楽苑連取店(伊勢崎市)。この店舗にした理由は2つあり、ひとつは「現在在住しているアパートが近いから」。もうひとつは「苦い思い出があるから」。
数年前、お昼時で混雑する幸楽苑連取店。お腹を空かせたオレはお名前を書いてお待ちしていた。「イチネイ」という名字をウェイティングボードに書き、ファミリーとファミリーに挟まれて座っていた。
その後も客が入ったり出たりを繰り返して20分くらい経ったころ、ついにその時が来た。
「イチメイでお待ちのイチネイ様〜」
先に動いたのは、知らない爺さんだった。
オレが名前を書いてから数分後に来店して名前を書いていた1名の爺さんが、イチネイ様として席に案内されていった。
市根井という名字は、確かに珍しい。これまでも「一年(イチネン)くん」とか「市根井(シネイ)くん」とか百万回ずつ言われてきたので言い間違いは慣れっこだったが、そのたびに「ハハッ、すみません変な名字なんですけど、イ・チ・ネ・イって言います」と笑って解決していた。しかし今回は実害が出てしまったのだ。
ウェイティングボードを見ると、イチネイの文字にしっかりと横線が引かれて役目を終えていた。「爺さんもイチネイだった説」もチラついたが、もうカトウとシミズしか残っていなかった。この日は悲しくなって帰ったのでそもそもラーメンを食べていない。久しぶりの来店は、気まずい感じで別れた元カノとの再会に似ていた。
ちなみにこの店舗、ラーメンデータベースには2006年からレビューが存在しているので、その時点ですでに存在していたのだろう。オープン&ヘーテンを繰り返す飲食店業界においては比較的長続きしているように感じる。
幸楽苑は日本全国に486店(現在)を構える巨大ラーメンチェーンで、本部は福島県にある。茨城に43店舗、栃木に23店舗、埼玉に47店舗、千葉に53店舗と続く中、群馬県はたったの16店舗と実は関東最少の店舗数。とはいえ群馬県内で考えると、おおぎやラーメンの30店舗には及ばないものの16店舗という展開数は多いほうである。
ちなみに本拠地である福島県の店舗数は60。
一応、「福島県の幸楽苑面密度」を算出してみたら約0.004店/平方kmだった。
コスパとハッピーファイブ
お昼のピークより少し早い11:20ごろにドアを開けると、中年の店員が3名、そして高齢者の客であふれていた。地方の高齢化が着々と進んでいることに震えつつも幸楽苑の客層の広さに感心する。店内が広いので、どんなお客であっても利用しやすいのは確かだ。
大人になってから幸楽苑に来たのは数えるほどしかないオレも、子供の頃はよく食べていた。学校から帰って親にラーメンタベタイと言うと「幸楽苑でいい?」と返ってきて、1ミリも濁りのない笑顔で「いいよ!」と答えていたが今思えば大変に失礼な問答である。
当時注文するのは決まって「ねぎ塩らーめん」だったが、その名はメニューから消えていた。美しい思い出ほど儚い。
よく見たらラーメンのメニュー表自体が随分とシンプルになっている。明らかにフォントサイズもデカい。こうなってくると、むしろ幸楽苑のほうから高齢者に擦り寄っているように見えてくる。
と思ったら突然「コスパ」とかいう言葉が登場した。前言撤回。若者のことも考えているお店です。
でも「客側のコスパが最強であること」を自分から推してくる飲食店は狂っていると思う。
ひとまず今回は「塩らーめん」に「千切りねぎ」をトッピングすることで「ねぎ塩らーめん」を再現することにし、絶妙なデザインが施されたセットメニューから①6コ餃子ライスセットを注文した。このメニュー表は本部のデザイン部が作っているんだろうか。
変わってしまったもの、変わらないもの
塩らーめん + 千切りねぎ + 6コ餃子ライスセット
ビジュアルについては特に触れる部分もないが驚きなのはその値段で、塩らーめんは440円。これは一番人気商品「中華そば」と並び、幸楽苑で提供している麺類の最低価格だ。110円のネギをトッピングしても550円なのである。これはGUNMA YASUI RAHMEN GRAND PRIXがあれば余裕で優勝候補に食い込む実力。あのバーミヤンラーメンよりも安い。
近年の経済状況で、ラーメン一杯の価格がどんどん釣り上がっている。個人店のラーメンといえば650円〜800円くらいが相場であるように感じているが幸楽苑は440円。これは材料を大量に仕入れて提供できるチェーンの強みといえるだろう。
先ほどビジュアルについて触れる部分ナシと吐き捨てたが、あった。塩らーめんのチャーシューが変わってるじゃねえか!
幸楽苑のチャーシューは、最低でも2種類あったことを記憶している。中華そばなどは写真のような平たいバラチャーシューだったが、塩らーめんは脂が少なく細長いチャーシューだったはずだ。そりゃあ一種類に揃えたほうが合理的かもしれないが、こういう大事な余計な部分をすぐに変えてしまうのがチェーン店なのである。彼らに小さな声を拾うキャパはない。
動物系の出汁が感じられるスープ。少しだけ安っぽいことに目を瞑れば普通に美味しい。多加水のプリプリ麺との相性もよい。この味と食感は昔からほぼ変更がない。トッピングした千切りねぎはラー油が効いたピリ辛で、これも変わらない味。新しくなったチャーシューはほんの少しだけおいしい。決してまずいわけではないがおいしいのはほんの少しだ。
そんなことよりも麺と同じ小麦粉を使っているという餃子の皮がもちもちで旨かった。白米の炊き具合も完璧に近い。これからはコスパ最強の餃子定食も視野に入れてみたい。
ごちそうさまでした
帰り際、幸楽苑のどこかの店舗の出入口付近の壁に貼られていた「そっと丼を持つと」で始まる臨場感あふれるポエムを思い出した(連取店にはないようだが)。
あれを見たのは中学生の頃だった。当時を思い出す。オレがこうなってしまったのは全て「インターネットを作った人間」のせいだと思うことにしてやっと他人に話せるようになった話だが、中学生当時のオレはボーカロイド情報を集めた小冊子を作ってオタクの同級生に500円で売りつけていたヤバい奴だった。しかしよく考えれば今も同じようなことをしている。そこから数えるとライター歴は12年なのでもっと敬われていい気がしてきた。記事単価30万円以下の仕事全部断ろっかな、実質無職になるけど
[…] 【惰性で麺を食うな】チェーン店のラーメンを大真面目にレビューしてみる 幸楽苑編 […]