「餃子の王将」。北海道から九州まで全国展開する中華料理のチェーン。
全国に730店舗以上存在する超大手なので、これを読んでいるみなさんも一度は行ったことがあるのではないかと思う。
実は京都に本社があるらしい王将。京都いいよね。
京都といえば、自分は中学生のころの修学旅行で行ったきり。中学時代はスクールカーストの下の上としてドブドブに暗い3年間を過ごしていたわけだが、そういえばその修学旅行に関しては記憶が強く残っている。あの数日間は、中学生活の中でひときわ光を放っていた。
竹中という男
修学旅行はクラスのメンバーが同性・数人一組のグループに分けられて行動をする。自由行動も部屋の割り振りもそのグループ。つまり京都にいる時間のほとんどはそいつらと一緒に過ごすことになるのだ。
グループの中に、あまり関わったことのない竹中というやつがいた。竹中はいわゆる”陽の者“ではあるものの、授業中でも構わず積極的にチョケに行くイガグリ坊主とは違って、なんだかオーラを放っているイケメンだった。サッカー部でしっかりモテるし、成績も悪くないし、先生からの評価も高い。オレがメカニカルなシャーペンに心を踊らせている頃、竹中は女子とゲーセンに行っていた。
オレが遅刻すると
先生「市根井なあ、お前のためにみんなが大事な時間を使わされているんだぞ」
オレ「ア…ア…スマセン…」
と真面目な説教をしてきた先生も、竹中に対しては
先生「またかお前!wいい加減にしろよな!w」
竹中「いやーすいませんw」
みたいな感じだった。中学校においてスクールカーストが高いことは「コミュニケーション能力が高い」と評価されるから愛されるのだ。たぶん。
修学旅行のグループ分けは先生たちの独断で行われるが、そんな竹中と風呂場の隅っこの黒カビのように暗いオレが同じグループになったのは何らかの意図が働いていたと思わざるを得ない。
当時はかなり嫌だった。竹中が目の前に居るだけで「人間として負け」になった気分になるからだ。竹中と一緒になるくらいなら、底なしに明るくてみんなからイジられまくっている木内と一緒になったほうが断然マシだった。
グループでの京都観光を終え、消灯時間が来た。先生の見回りもスルーし、グループの男たちは「これからが男子の時間だぜ…!」といわんばかりにUNOを始めた。
比較的真面目であった当時のオレは叱られる恐怖からそこに混ざることができず、一人で修学旅行のしおりを見返していた。
しかし、よく見ると竹中はUNOに参加していなかった。あれ、どうしたんだ…?と思ったら、竹中がオレに話しかけてきた。
同じクラスではあるもののコミュニティが異なるのでほとんど喋ったことがないので驚くオレ。
竹中「俺、ああいうノリあんまり好きじゃないんだよね。」
オレ「あぁ、そうなんスね」(なぜか敬語)
竹中「ねえ、そういえばこないだ読書の時間で星座の本?みたいなの読んでたよね。星好きなの?」
オレ「あぁ、まあ他に読みたいものもなかったんで適当に図書館で借りてきたw」(なぜかイキる)
竹中「ふうん。俺、望遠鏡持ってるんだけど、星見てると自分の人生がすげえ小さい存在に思えてくるんだけど、わかる?この感覚。」
オレ「エッ、うん、わかる。わかる。」
・・・
・・
・
竹中と話した夜は、ひたすらに長かった。そして短かった。
当時は「竹中って意外といいやつなんだな」くらいにしか思わなかったが、暗い中学校生活の中で、こんなに友達を友達であると意識した日は他になかった。
修学旅行後、竹中との関係は特に変わることはなく、相変わらず喋る機会はないまま。でもオレにとっては、クラスのイケメンの密かな一面を知ることができたことが誇らしく感じられた。
この修学旅行は10年以上前の出来事だ。どこを観光したか、何を食べたかはほとんど覚えていないが、竹中と語った話の内容だけは鮮明に覚えているのであった。
さっさと食え
竹中とのエピソードを思い出していたらアツくなってしまった。王将の店内に戻る。
今回食べに行ったのは、前橋三俣店。東部バイパスという利便性の高い道路に面しており、周辺で働く人々、暮らす人々がよく利用している印象。
お昼どまんなかの訪問、混雑度は8割くらいとなっていた。ただし時期が時期なので(2020年7月)席同士にスペースが空けられており、実質満席といってもよいくらいだ。
席につきテーブルを見ると、いきなり「若鶏の塩レモン炒め」と「若鶏の味噌炒め」が闘っていた。
値段が若干高い時点で塩レモン炒めが勝っているということでは?と一瞬思ったが、ものの価値は経済資本だけで決まるわけではないぞと自分を戒める。
とりあえずランチメニューを確認。この店のランチは11:00〜17:00。17:00に食う食事をランチと呼ぶやつはおらんやろと思いつつ、Dセットのラーメンランチを注文することに決めた。
麺類+餃子+小ライスの組み合わせはまさに鉄板、これで780円。個人店だとラーメン一杯分くらいの価格なので完全にお得。チェーン店の良いところ。
王将の麺類は意外と種類が多い。ベーシックな豚骨ベースの醤油ラーメン「餃子の王将ラーメン」、鰹が効いた「日本ラーメン」、そして中華料理店らしく五目そばや揚げそばまで。
どれをチョイスするか悩んだが、ここで一つあることを思い出す。
餃子の王将はなぜか店舗ごとに独自メニューを開発・提供していることが多いのだ。自分がよく訪れていた前橋駒形店も店舗限定ラーメンがあった気がするので、この店舗でも何かそういうものはないか探してみると……
やっぱりあった!裏メニュー。あんかけの乗った広東麺や横浜名物サンマー麺などがある。なるほど……。
しかしここはやはり、三俣店特製こってりラーメンを選ばない手はあるまい。「スープが濃厚であること」以外まるで情報が記載されていないメニュー、一度気になり始めたらもう注文するしかなくなってしまう。
チェーン店で冒険するということ
到着、何とも楽しげな盤面……
ラーメンを食べる時に餃子やミニ丼のセットをつい注文してしまうのは、「腹を満たしたいから」ではなく、この華やかな光景を見るためなのかもしれない。
ラーメンにデフォルトで味玉がついてると少しうれしい。しっかり半熟。
スープは動物系のダシとみられ、確かにこってりしている。しかし決して重たくはない。
麺は食べやすい中細麺で悪くない。これは餃子の王将が全国の店舗に同じものを発送しているのだと思う。
ここで、チェーン展開における「クオリティの固定」について考える。
群馬県に数多存在する個人店の楽しみは、挑戦的な限定メニューだったり、店主の機嫌で味が違うところだったり、お店の内装がときどき変わることだったりする。つまりクオリティにブレがあり、それを冒険として楽しむというやり方だ。
それに比べて、大きく展開しているチェーン店は冒険要素が少ない。
しかしこれは善悪・優劣の話とは異なる。チェーン店は開発した商品を全国でクオリティを保ったまま出すことが強みなのであり、ブレを生む原因は極力排除するのが当然なのだ。
そしてよく考えれば、それらのフォーマットを考えたのは人間なのである。
「餃子のタレはゆず風味にしましょう」とか「半味玉入れましょうよ」とかを、よかれと思って考え抜いたやつがどこかに居る。
さらには三俣店の王将のように独自のメニューを開発している店舗もある。
人間が関わっていれば当然のことだが、結局チェーン店だってブレる。決してパーフェクトではない。
ということは、チェーン店で冒険することだって可能なんじゃないか。
むしろ、絶対的な冒険要素が少ないという制限の中で戦うからこそ燃える。そんな側面はないかと考える。
偏見を捨て、チェーン店へ行け
完璧なイケメン、陽の者だと思っていた竹中が、あの夜にしてくれた天体の話は、いわば人間のブレの部分だった。
あの時に竹中がブレを見せてくれなかったら、オレは一生竹中を誤解しつづけていたことだろう。
そして、竹中と、王将を含むチェーン店のことを重ねる。
竹中の場合はむこうから接触してくれたから運が良かったが、チェーン店には自らが赴かない限り出会うことができない。
「腹減ったな、ラーメンでも食う?」
「そうしよう。王将でも行く?」
「え〜、チェーン店?もっとなんか他にない?」
そんな会話は、もうやめにしよう。
ラーメン屋は竹中ではない。
我々が受け身でいる限り、いつまで経っても冒険は始まらないのだ。